講座011

小型船舶の事故例とそこから学ぶべき教訓について(2021年版)

海・船に潜む恐怖を知り予防しよう
 

 初回の2020年版コラムに引き続き、本テーマでのコラム第2弾となりました。

 

今回もまた、2021年中に運輸安全委員会から報告書・経過報告書が発表された事故のうち4つをピックアップし、今後のマリンレジャーに役立つであろう事故防止のための教訓を考察して紹介させていただきます。

   

〈目次〉

 
     
  1. 猪苗代湖3名死傷事故(2020年9月6日)(経過報告書*)
  2.  
  3. 鹿島港5名死傷事故(2020年11月28日)(経過報告書*)
  4.  
  5. 水上オートバイの曳航による事故(2020年9月20日)
  6.  
  7. プレジャーボートの航走波による事故(2021年2月14日)

*経過報告書:裁判などで調査が長引いている事故に対して、事故発生から1年後に運輸安全委員会が今までの調査内容をまとめてくれている報告書

事故例1:2020年9月6日 福島県 猪苗代湖

【事故概要】

計10名が乗船していた大型クルーザーが猪苗代湖の中田浜を航行中、ザップボードに乗るために湖面を浮遊して順番待ちをしていた親子計4名と衝突。
衝突された4名のうち1名(当時8歳)が死亡、2名が重傷を負う事故が起きた。

参照:Google Earth
*当該事故現場は遺族側の主張によるもの


 本事故はニュース等でも大々的に取り上げられ、2021年9月12日には業務上過失致死傷罪により大型クルーザーの船長が逮捕されたことで話題が再燃した。

2021年12月27日には本事故についての初公判が行われ、被告が一部起訴内容を否認した。

*本事故に関する運輸安全委員会の経過報告書はこちら


【ポイント】

 本件のポイントは、本事故現場が「船舶航行区域外」であった可能性があるということです。
*諸説あり、遺族側の主張によるもの

猪苗代湖でのローカルルールでは船舶航行区域に出るまでは原則徐行運転と前方確認をしなければならないと定まっています。

事故を起こした大型クルーザーは、船舶航行区域外にいて徐行と前方確認をしなければならなかったにもかかわらず猛スピードを出して危険運転をしていたということになります。

つまりは、被告がローカルルールに反して船を操縦していたということです。

本事故後に猪苗代湖ローカルルールの改正があり、事故現場付近は下図のように徐行運転からプレジャーボート利用禁止区域に変更となりました。




猪苗代湖ローカルルール

参照:猪苗代湖水上遭難対策協議会HP
猪苗代湖 ローカルルールのパンフレットダウンロードはこちら


【教訓】

 海上法規に適用しない水域(湖・川など)は無法地帯になっているかというとそうではありません。
各地域で独自にルールを定めているローカルルールや、法律である河川法が存在するのです。

湖や川でマリンレジャーを楽しむ際は必ずその水域のローカルルールを事前に確認し、遵守する必要があります。

本事故により幼い子どもの命が奪われ、その子どもの母親も両足を切断され義足生活を強いられているのが現状です。

ローカルルールは法規でないものもあるので軽視されがちですが、事故を未然に防止する役割があるのはもちろんですし、
また、地域によってはローカルルールの違反が罰金の対象となるケースもあります。

事故が起きた後に後悔しても後の祭りです。
そうならないようローカルルールなどを事前に確認した上で必ず遵守するようお願いします。

また、本事故で亡くなった子ども(瑛大くん)の父親らの知人が、当時の事故状況を記録したり情報提供を求め、HP「TEAM瑛大」を開設しています。
当該HP内の「事故の経緯」欄には当時の事故状況が細かく記載されております。
本事故の危険さ・悲惨さがよく分かる記事になっておりますので是非ご一読いただければと思います。



事故例2:2020年11月28日 茨城県 鹿島港

【事故概要】

遊漁船「第5不動丸」(4.95トン=小型船舶)と貨物船「はやと」(498トン)による衝突事故

   
05:00  釣り客10名を含む計12名を乗せた遊漁船が鹿島港 北海浜第1船だまり(場所は下図参照)を出航、沖合に向かう。
05:22  鹿島港の南埠頭沖合で当該遊漁船と貨物船が衝突。
05:35  海上保安庁に事故の通報あり。

参考資料:読売新聞オンライン記事(こちら
参照:Google Earth
*当該事故現場は報道によるもの



 

*本事故により遊漁船に乗船していた1名が死亡、4名が負傷した。

 

*のちに2020年11月29日 双方の船長を逮捕、  
2021年10月19日には双方の船長を業務上過失致死傷と業務上過失往来危険の疑いで書類送検されている。

 

*本事故に関する運輸安全委員会の経過報告書はこちら

【ポイント】

本事故も事故例1と同じく、ニュース等で大々的に取り上げられ、全国的に有名な案件となりました。
本事故でのポイントは双方の船長ともに書類送検されたことです。

原因としてはそれぞれの見張り不十分のほか、操船に不適切な点があったなどと報道されております。
どちらか一方でも見張りを十分に行っていたら、あるいは適切な操船を行っていたら事故は起きていたのでしょうか…。

【教訓】

仮説となってしまいますが、本事故はもしかしたら一方が見張りを十分に行っていたら、あるいは適切に操船していたら防げた事故かもしれません。
海上交通は陸上の道路交通と違い、相手を回避できるタイミングや手段、方向が多数あります。
(上記理由から船舶事故において被衝突側の過失割合が0になりにくいというのもありますが…。)

まずは自己から見張りの重要性・航法を再確認し、他船に関係なく未然に事故を防止する努力をすることが重要となります。

下記に具体的な見張りの手段・代表的な航法を記載いたしました。
こちらは免許取得時や更新講習の際にも説明される基本的な事項となります。
最低限これだけは頭に入れながら操船をしていただければ事故を起こす確率も格段に低くなるでしょう。

<見張りの手段・心がけ>

 見張りは「全方位にわたり 対象物を特定せず 継続的に繰り返して」行うことが重要です。
要するに、乗船している間はいかなる場合においても 他船との衝突のおそれが無いか360°見渡し、
1つの船舶や障害物だけを注視するのではなく、視野を広げて見張りを行うよう努めるということです。

他船との衝突のおそれとは、 他船とのコンパス方位が明確に変化しないで次第に近づく時となります(下図参照)。

<航法>

下記事項は「海上衝突予防法」という法令で定められている世界共通のルールになります。

① 2隻が真向かい、またはほとんど真向かいに行き合う場合
 → それぞれ右転して相手船を避ける(右側航行

② 横切りの場合(パターン1)
 → 相手を右に見る船舶がその相手船を避ける(右方優先



③横切りの場合(パターン2)
 → ②と同様

④追い越しの場合
 → 追い越し船が追い越される船舶の進路を避ける(被追い越し船優先

*避航船:優先順位が低く、避けなければならない船舶(図②〜④でいう青色の船舶)

事故例3:2020年9月20日 北海道 屈斜路湖

【事故概要】

水上オートバイA(3名乗船、乗船者を前からA1(操縦者)、A2、A3と呼ぶ)と
水上オートバイB(1名で乗船し、他1名を乗せたトーイングチューブを曳航していた)による事故



A船とB船は仲間であり、A船はB船及びトーイングチューブを撮影する目的で機関を停止し、浮遊していた。

   ↓

B船船長はA船が機関を停止し浮遊していたのを確認した上で右旋回を始めた。
A船乗船者3名は曳航索をくぐらなければならない事を認めた上で身をかがめて曳航索を避けようとしたが
A1の顎に曳航索が当たりA1が落水、続いてA2の顔面に曳航索が当たり、A2は後頭部をA船船体を打ち付けた後、落水した。

   ↓

B船の船長らが落水者を救助し、負傷者2名は救急車により搬送される。
のちにA1は顎の擦過傷、A2は全治2ヶ月の眼底骨折及び後頭部裂傷の大ケガを負った。





参考資料:運輸安全委員会 当該事故報告書
参照:Google Earth 

*本事故前に4〜5回の撮影を無難にこなしていたので曳航索に対する警戒心が薄れていたとA・B両船船長は述べている。

*B船船長は本事故が起こる直前の右転をする際、A船が曳航索をくぐることになるとは思わなかったと述べている。

 

*本事故に関する運輸安全委員会の報告書はこちら

【教訓】

本事故が起きた原因としては

     
  1. A船が動画撮影をしていて注意が散漫だったこと
  2.  
  3. 両船船長の「大丈夫だろう」という思い込み

の2点が主に挙げられます。

1.A船が動画撮影をしていて注意が散漫だったこと

 動画撮影が原因で起こる小型船舶の事故は頻繁に起こっています。
動画撮影に夢中になり、見張りや操船が疎かになってしまうからです。

*動画撮影が原因で起こった他の事故例Ⅰはこちら
*事故例Ⅱはこちら

本事故でも、B船及びトーイングチューブを間近で撮影したいという気持ちから、危険な距離まで曳航索に近寄って事故が起きてしまったものと思われます。

動画を撮影する場合、できる限り周囲の船舶や障害物との距離を確保し、ある程度操船に慣れてきたら撮影するなど安全に配慮しましょう。
また、頭に固定できるタイプのカメラやバンドを使用したり陸上からドローンを操作して撮影するなど、乗船時は両手が常時空くような工夫が必要です。

2.両船船長の「大丈夫だろう」という思い込み

「思い込み」による事故例は2020年版コラムの事故例②でも詳しく説明をさせていただきました。
本件の場合、「曳航索に引っかからないだろう、もしくは避けられるだろう」ではなく、「引っかかるかもしれない」という慎重な考えの元、操船をしていただければ事故のリスクは格段に減るでしょう。

事故例4:2021年2月14日 香川県 小豆島町

【事故概要】

本事故船(プレジャーボート、5トン未満=小型船舶)は船長含む計3名で乗船し、次の釣り場に向かう途中であった。    

10:28  元いた釣り場から他の釣り場に移動開始。
10:30  正船首方向から他船の航走波が接近してくるのを認めた。
船長(操縦者)はエンジンを中立にして減速する措置を取ったが、正船首方向から航走波(引き波)を受けて船体が上下に大きく揺れ、
前部甲板船首部付近にいた同乗者の身体が宙に浮いて落下。甲板上に臀部を打ち付けた。
10:43  負傷者の状態が良くないので船長は福田港に到着後、119番にて通報。
負傷者が救急車で搬送される。のちに第3腰椎圧迫骨折と診断された。

参照:Google Earth 

*本事故に関する運輸安全委員会の報告書はこちら

【教訓】

運輸安全委員会の報告書にもあるように、本事故が起きた原因としては

     
  1. 同乗者(負傷者)の乗船位置
  2.  
  3. 航走波(引き波)の受ける方向

の2点が主に挙げられます。

1.同乗者(負傷者)の乗船位置

負傷者は当時、前部甲板船首部付近にて手すりを左手で握った状態で進行方向と反対側(船尾側)を向いて腰をかけていたようです。

小型船舶は後方に船外機や船内機が搭載されているので、船体の重心は一般的には中央やや後方に位置しています。
また、船舶の揺れは船体の重心から離れるほどより大きく揺れる構造をしています。
よって、より重心に近い位置にいるほうが揺れが少なくなるということです。

実際にこんなデータがあります。
小型旅客船乗船中の事故のうち、負傷した方の約7割は本事故のような船体の揺れによって身体をぶつけ、骨折をした方だそうです。
ひいてはそのほとんどが旅客船の前方の席に着座していた方だといいます。

まとめると、甲板上に座る際はなるべく船体重心から近い場所へ──── 前部甲板よりも後部甲板にいるよう努めましょう。

揺れが小さくなるということは船酔いになりにくいということにも繋がります。

2.航走波(引き波)の受ける方向

「波は腹から受けるな!」は操船において基本的な鉄則であると言えます。
船は縦長の構造をしているので、ピッチング(縦揺れ)よりもローリング(横揺れ)のほうが転覆しやすいからです。

しかし、航走波を船首尾方向から受けると当然ながらピッチングが起き、本件のような事故を引き起こしたり、
水面に打ち付けられる衝撃により船首部船底部分や船外機に悪影響を及ぼしたりします。

そこで、航走波は 斜め45°に受けると揺れや船体にかかる負担は最小になります。
これは台風の危険半円(北半球の場合は右半円)に入りかけた場合、右前方斜め45°から風や波を受ける鉄則と共通しています。
また、航走波を受ける前に減速しておくのも船体の衝撃を抑える有効な手段です。

まとめると、できる限り前方斜め45°から航走波を受けるよう努めましょう。
間に合わなければ後方斜め45°でも良いでしょう。
無理に前方から航走波を受けようとして旋回が間に合わず、横方向から航走波を受けないようにご注意ください。

【まとめ】

今回で同テーマのコラム第2弾となりましたが、第1弾で掲載できなかった上記事故例1(猪苗代湖の事故)、及び事故例2(鹿島港の事故)を紹介することが出来ました。

今回まとめさせていただいた事故4つを振り返ってみて

事故例1 → ローカルルールの事前把握及び遵守
事故例2 → 見張りの徹底及び海上交通ルールの理解
事故例3 → 乗船中の動画撮影について
事故例4 → 乗船位置及び航走波の受け方

といった内容となりました。

しかし、運輸安全委員会の報告書が上がっておらず紹介できなかったもので、2021年9月に起きた淡路島の水上オートバイ3名死亡事故があります。

当該事故は水上オートバイの高速走行によるものが原因と見られ、兵庫県の条例改正の動きに発展するまでに重大な問題となりました。

近年、小型船舶による重大事故が多数起きていますが、その原因として自動車の運転免許などに比べて簡単に取得できてしまう免許制度や
緩い海上交通ルール(速度制限が一部海域にしか無いなど)であると指摘する新聞などの記事をよく見受けます。

確かに一理あるように思えますが必ずしもそれだけが原因ではないと筆者は考えます。
本コラムで述べた教訓その他を活かし、操縦者一人ひとりの意識の変化で船舶事故は大きく減るはずです。

なお、船舶免許は5年に一度、更新をして頂く必要がございます。
更新の際に受講する講習にも小型船舶の事故に関する内容が含まれております。
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安全で楽しいマリンレジャーになることをお祈りしています。
Bon Voyage!!

2022年1月 執筆 





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