朝日新聞デジタル：日間賀島を歩く - 愛知

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ぐるり東海【南知多通信】

日間賀島を歩く

顔を見合わせて笑う北川博司さんと道子さん夫婦＝南知多町日間賀島

引き揚げたタコつぼからタコを取り出す鈴川勝一さん＝南知多町日間賀島の沖合

　愛知県南知多町の港から２・４キロ沖にある日間賀（ひまか）島は、「タコの島」として知られる。この町の話題を集中して紹介する「南知多通信」を始めます。初回は、タコ漁一筋の夫婦の話と漁の同行ルポです。

●夫婦船　タコ漁一筋

　北川博司さん（６３）と道子さん（６２）夫婦は、今も毎日欠かさず海に出る。

　博司さんは島で生まれ育った。船が好きで、幼い時から父親と釣りに出た。「中学を卒業したら漁師になる」。迷いはなかった。タコ漁師になり、名古屋で出会った道子さんと結婚、３女を授かった。娘たちが手を離れた頃に道子さんも一緒に漁に出るようになった。もう２０年になる。

　道子さんは鹿児島県の山側育ちで、魚を触ったこともなかった。最初は船酔いに苦しめられた。それでも、何もかもが初めてで興味津々だった。

　以前は１人で漁に出ていた博司さんだが、道子さんと乗ると効率が上がり、水揚げ量も倍に。何より２人でいると心強い。船内で滑ってあばら骨を折ったことがある。道子さんに指示して船を操り、港にたどり着いた。タコ漁は２人の絆を強めた。今ではタコをしめるのも道子さんの方がうまい。「何をやらせても母ちゃんには勝てんわ」。そう言って博司さんは笑う。

　島のタコは風味が良い。貝やカニをエサに、島に近い浅瀬のタコほど味が深い。タコつぼ漁が中心で、底引き網漁に比べて傷がつきにくく鮮度も良い。「日間賀島のタコの味を知るお客さんがたくさん来る。半端なものは出せない」

　漁協によると、島のタコ水揚げ量は２０１４年度が３３トン、１３年度が１３１トン、１２年が８２トンと変動が激しい。今年も少なめだ。それでも夫婦はどんな時も海に出た。必死に働いて娘たちを大学に通わせた。３人とも結婚し７人の孫がいる。「孫に漁師を継いでもらえたら」とひそかに願う。

　博司さんは「タコ漁は俺の生きがい」と言い切る。まだまだ引退するつもりはない。島には８０代の現役漁師もいる。道子さんも「漁に出るうちは私も助けないと」。「おっかあがいないと俺は困るよ」。照れくさそうに博司さんが返した。

●沖合１キロ　獲物、つぼに

　　タコ漁のことがもっと知りたくて、漁に同行した。

　協力してもらったのは、鈴川勝一（しょういち）さん（７２）と長男の啓史（けいし）さん（４１）父子。漁師の朝は早い。午前６時、まぶしい朝焼けの中、小型船は進み、島から約１キロ離れた沖合で漁は始まった。

　約４０個のタコつぼが１本のロープに約１０メートルごとに結ばれ、３～４日前から海底に仕掛けられている。機械で引き揚げると、威勢のいいタコが逃げ出そうとする。すかさず勝一さんがつかんで船内の水槽に放り込む。

　すべて引き揚げると、つぼをまた海底に仕掛け、次の漁場に向かう。この日は多い漁場で１０匹取れた。「この作業の繰り返しだ。もう５５年やっている」と勝一さんは胸を張る。啓史さんも高校卒業と同時に漁師になったという。

　揺れが激しく、記者は乗船して２０分後には船酔いになった。なのに、「きょうは波がおだやか」と話す２人。船上でもバランスを崩さずに立ち、つぼを仕掛けた場所を書き記す。

　昼過ぎまで作業を続け、そのまま町の魚市場へ向かった。１キロ当たり千円ほどの値がつくという。

　同行した前日、島で素潜り漁中に亡くなった女性がいた。漁は海の事故と常に隣り合わせだ。過酷な仕事だが、海に生きる人たちはみな誇らしげな表情だったことが、胸に残った。

　【担当します　安仁周（アンインジュ）記者】　２００８年入社。仙台、岐阜総局を経て昨春から名古屋報道センター。実家は海の前だが泳げない。３１歳。

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